人間はこの世に現れて以来、様々な体験をして、それを記憶し、自分の生き方に生かし、また次世代に伝えてきました。成功した体験は再度の成功を生み、失敗した体験は次の成功への足がかりとして、その結果個人個人の幸福と、豊かな文化を創り上げてきたのです。人間の知恵とは、すなわち体験を生かす能力だと言えるでしょう。
　成功も失敗も、すべてよりよい未来をもたらす大切な材料であるはずなのですが、それを十分生かせていないことが随分あります。そればかりか、むしろ体験したことが災いとなって、自分の生き方を狭めたり、日常生活の妨げとしてしまうことすらあります。
　特に失敗したとき、それをどう受け止めるかが大きな問題です。失敗の原因を究明して、次に取り組む事には同じような失敗をしないよう、物事に取り

組む心構えや態勢を整えるのが本来の姿ですが、失敗を悔やんでいると体験を生かすことはできません。
　あの時ああすればよかったとくよくよ考え続けて、いったい何が生まれてくるというのでしょう。こんな思いにとらわれていても何にもならないと分かっていても、つい後悔をしてしまうのは、自分を買いかぶっているからに違いありません。
　失敗したのは、自分の力量が足りなかったからであり、判断力が乏しかったからです。肝心の時に正しい方を選べなかったり必要な措置をとれなかった、という事実を知ることと、その程度の自分であるとはっきり認めることが大切です。
　そして、過去に対しては何もできないという現実も、はっきり腹に入れましょう。人間は今をどう生きて、未来をどうするかを目指すしかないのです。
　幸福を築くためには、現実を受け入れる素直さや、現実を認め生かしていこうとするねばり強さや、この状態から再出発しようというたくましさがもっ

と大事です。ここから今必要な知恵が生まれてくるのです。
　どのような体験もありのままに受け止めて、それを今後に生かすという、未来志向の生き方を目指していきましょう。