今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成27年 8月号 真理の展望
若い人に伝えたいこと
橋本のり子
大きい夢と小さい目標
これから人生を築いていく若い方々に伝えたいことがあります。それは大きい夢を持っていただきたいということです。大きいと言っても、目立った業績を上げて人から脚光を浴びるというような意味ではありません。すぐには達成できないけれど、長い年月努力を積み上げていくことで、やがて成し遂げられるというものを指します。
人間は自分で物事を決めて行っていくという、意志の力を授かっています。これが人間と動物の大きな違いです。ですから、人間らしく生きるためには、この意志の力を存分に生かし働かせていくことが必要なのです。
もし人生に夢も希望も持たず、自分のはっきりした意志を持たずにいたら、ただ毎日周囲の状況に流
されて生きていくことになります。なるべく困らないように、自分の身の上に波風が立たないようにということだけで過ごしていき、特別な努力もせずに楽な生き方だけを求めて生きることになります。それでは生き甲斐を感じることができませんし、充実した人生を築くことができません。
人間として生まれて頂いている尊い意志の力を働かせて、「自分はこれを目指していく」というものを是非持っていただきたいと思います。
ただし、夢を持てばそれでいい、というものではありません。夢だけでは、空想に終わってしまうからです。自分に何ができるかをじっくり考えて大きい目標を決めた後に、それならどうすればそれが実現できるかをしっかり考えていただきたいのです。
例えば、ある特殊な職業に就きたいという夢を持ったとします。そしてそれには資格が必要で、そのためには専門の学校に行って勉強しなければないとしましょう。そうすると、授業料を貯めなければなりません。それなら一年間アルバイトをしてお金を
貯めると決めて、毎日頑張って働くということになります。夢を実現するために、お金を貯めるという目標が生まれます。そして、アルバイトという具体的な努力が生まれます。アルバイトをきちんとこなすために、毎日早起きをしたり、必要な言葉遣いを身に付けたりというような、より具体的な小さな目標を立ててそれをこなしていくことになります。
毎日の努力は、自分の夢とは一見遠く離れているように思いますが、夢の実現のための大切な一歩一歩となるのです。このように、大きい夢を持つと同時に、それの実現のための小さい目標をきちんと掲げて取り組んでいただきたいと思います。
こうして具体的な努力を始めることで、毎日の生活が充実してきます。無意味なことに時間を使って空費することが無くなります。また不要な物にお金を使うことも無くなってきます。つまり、誘惑に負けない生き方が身に付いていくのです。
自分の毎日の暮らしを振り返ってみてください。もしも、ついつい時間を浪費してしまうことが多かったり、要らない物にお金を使いがちだと思うので
したら、それは大きい夢を持っていないか、あるいはたとえ持っていたとしても、夢の実現のための具体的な目標を立てていないかのどちらかだと思います。せっかく頂いた尊い人生、そして今持っている若さを浪費するのではもったいないことです。
人間は一生を掛けて向上していくものですから、どんなに高齢になっても夢や目標は必要です。八十歳を越した私も、夢と目標を持っています。その意味では年齢は関係ありませんが、若いということは、それだけ可能性が大きいということです。時間が多いということは素晴らしいことです。その特権を大いに生かして、夢に向かって進んでいただきたいと思います。
「仕方なしに」をやめる
自分の意志を働かせることが大切であると述べましたが、社会の中で生きている以上、自分が望んでいる通りを行えるとは限りません。
例えば、就職して職場で与えられた仕事の中で、教わったやり方が自分に納得できず、別のやり方の方がいいと思ったとします。それを提案して採用さ
れれば問題はありませんが、それが却下された場合や、新米の立場ではとても言い出しにくい場合、言われた通りにするしかありません。
あるいはまた、職場のある一つの習慣が自分の好みではないけれど、全体がそれをしていて、自分一人だけがそれから外れるわけにはいかないという場合もあるでしょう。
そんな時、言われた通りに、あるいは皆と同じように物事をすることになります。問題はその際の心の在り方です。どうかすると、「本当はこんなことをしたくはない」という気持ちに捉われてしまいがちです。やる気を失ってしまうでしょう。そして、職場に対する不満を募らせるかもしれません。それはとてもつまらない生き方です。
ここで自分の意志を働かせてほしいのです。「今の状況の中では、指示通りにするのがベストである。だから私は自分の意志でこれを行うことにする」と心に決めてください。自分がやると決めたことなのだと、思いを定めてください。そして全力で取り組んでいきましょう。
現実をそのまま受け入れて全力でやっていると、そのやり方の良さが分かってくる時があります。たとえそうならなくても、精一杯していく中で自然に周囲から信頼が得られていき、やがて自分の意見を聞いてくれるところに行き着いていくでしょう。
大切なことは、何をするについても「自分の意志でする」という心の姿勢を持っていただきたいのです。他人のせい、会社のせいで嫌な事をさせられているというのは、人間の尊さを自分で捨てた生き方です。それでは「仕方ないからする」という生き方が身に付いてしまいます。
思い通りにならない中でこそ、自分の意志を大切にしてください。
一切が恵みである
「若いうちの苦労は買ってでもせよ」という言葉があります。もしそれができたら素晴らしいことです。しかし、私たちは楽を求めてしまう心がありますので、なかなか難しい事です。
しかし、望まないのに困難は起きてくるものです。例えば、私は子供の頃食べ物の好き嫌いがとても
激しかったのですが、戦争中の疎開先で嫌いな物を沢山食べさせられました。その時は本当に辛いと思っていましたが、そのお陰でだいぶ食べられるようになりました。もしも疎開していなかったら、この年になっても食べられない物が色々あったでしょう。栄養も偏って健康も損ねていたかもしれません。今思えば、大変有り難い事でした。
人生の中で自分の望み通りにならない事、辛い事は起きてきます。それを不運だと思いがちですが、実は自分の向上のためにぜひ必要なことが起きているのです。一切は恵み以外の何ものでもありません。
困難に出遭った時に、「一切が恵みである」という言葉を思い出してください。そして自分のできる努力をしてください。必ずそれを乗り越えて、一歩向上した自分になっていけるのです。