今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成17年10月号 真理の展望

吾が子の可愛さは解っても・・・
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吾が子の可愛さは解っても
親に愛された事は解りにくい
母の心を思う

昭和40年版新生活標語の言葉が目にとまったのは最近の世相が影響しているからかもしれません。最近、親子同士でいがみ合ったり、殺し合うという殺伐とした事件が続発しています。それぞれに理由があってのことでしょうが、まことに悲しむべき状態です。
 これらの問題の多くは親子の気持ちがお互いにしっかり受け止められないために起こっているものと思われます。私も子や孫を持っていますので、これらの事件を他人事として見過ごすことはできません。
 一緒に暮らそうと離れていようと、親子の縁は切


れるものではなく、最初からお互いは愛情でつながっているのです。それを素直に認め合えない両者の関係を正すためにも、埋もれそうになっているこの標語が生かせないものかと思います。
  丈夫な歯を通して
 あらためてこの標語を見てみますと、前半の言葉は私も立場上実感することが多く、よく分かります。しかし後半の部分については、頭では分かりますが、正直に言って実感しにくいものがありました。
 それは私の個人的な事情のせいなのですが、7歳で実の親と別れているため、実際に親の愛に接した時間が短かったことが影響しているのだろうと思います。
 そんな私ですが、ある時から顔すら忘れている母親のことをあらためて意識するようになりました。それは私の歯のことでした。有り難いことにこの年になっても私は歯医者にほとんどご縁がないのです。
 これまで虫歯になったことは一度もありません。


余程入念に手入れしてきたせいだろうと思われるでしょうが、実はその逆で、健康な歯を良いことに歯磨きも一日に一回、適当に手入れしているだけで、他には特に何もしていません。きっと生まれつき丈夫な歯を頂いているとしか思えません。
 私が生まれて育ったころは、戦中戦後の物の無い時代でした。そんな中で私を身ごもり、乏しい食糧の中からカルシウムを精一杯摂って育ててくれたから、今もこのように健康な歯でいられるのだと思います。妊娠、出産の期間、母は食べ物を好き嫌いする思いをしないで過ごしてくれたに違いありません。
 最近の統計では子供の虫歯は一人平均4本、大人には8本あるそうです。私の年齢になれば、ほとんどの人が歯医者に通うことになるのでしょう。
 私も6歳ごろに乳歯が抜け落ち永久歯に生えかわったことを思い出します。抜けた歯を家の屋根に放り投げたら丈夫な歯が生えてくると聞き、そんなことをした記憶も残っています。しかしその場面に母がいたのかどうか、私の記憶にはそれすらおぼろげ


なのです。
  心と心のつながり
 信仰により私は日々順調に恵まれていることに感謝して暮らしていると思っていました。しかし歯を通して頂いていた母の愛情を考えると、歯が丈夫という尊い「遺産」は、食べ物の好き嫌いが少ない私の日常にもその原因があるのではないか。それは母の心を受けついでいるからではないかと思えるのです。
 この年になると何より健康が大事に思えます。その基が幼児期から頂き続けた親の保護のお陰であったと、素直に感謝したい気持ちがわいてきました。
 今となっては実の母に会って礼の言葉一つ言うこともできないのですが、心と心のつながりを信じて、遅ればせながら私の祈りが届いてほしいと思っています。
 親は一方通行的に子供を愛し、それが子供に理解されなくてもそれを許す。そのような親の寛容さに比べると、子供は親の苦労が分からないため、愛さ


れていることを当然と我がままを押し通していきがちです。
 親が身近にある時は素直に愛情の受け答えがしにくく、それが高じれば憎しみともなります。こうしたことが今起きてきている事件の下地にあるのではないでしょうか。
 親の愛情を具体的なことを通して感じ取ることができたら、それに応えようとするのが人の自然な姿です。押しつけずに言い、素直に答えることで、親子は親密さを取り戻すことができるのに、と思います。
 嫌ったり憎しみ合ったりする前に、親子は本来愛情でつながっていることを再確認しよう、とこの標語は訴えているのです。




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