今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成17年 9月号 家庭の出来事

ふ す ま
堤 興吉

♯ 落ち着かない
 三月始めのことでした。ふすまを張り替えることになってその手配をしました。ふすま屋さんは、出来上がるまで「十日ほどみてほしい」と言ってふすまを持って帰りました。
「いや…落ち着かないなぁ、ふすまが無いと」と思わず大きな声が出ました。私の声を聞いた家内も「ほんとにね」と言いました。
 玄関の戸を開けると部屋の中がまる見え。いや押入れの中もまる見えです。そしてふすまがある時には気にならなかった押入れの中。
「これはまずい、ちょっと整頓しなくっちゃ」
「これから十日間、ふすまの無い生活か、落ち着かないなぁ」
 約束の十日目の前日、ふすま屋さんから、電話が入りました。


「ふすまは出来上がっています。明日お持ちする約束ですが、明日は雨でしょうと天気予報で言っています。明日雨になればお持ちすることできませんので…」
「えー雨だとどうしてダメなんですか」
「せっかくのふすまに染みができるといけませんから」
「明日がダメで明後日が雨なら明後日もダメなんですね」
「とにかくお持ちする前日にお電話いたしますから」
 雨やふすま屋さんの都合などで、結局ふすまが入ったのは予定だった日の十日後でした。ふすまを持って行かれてから二十日目です。この間本当に落ち着きませんでした。
       ○
 昔、障子をバーン!と音をさせて閉めた方があり、その音を聞いていたその方のお爺さんが「そんな障子の閉め方があるか」と注意をされました。
「障子はお前たちの生活を保護してくれているんだ


よ。もしあるべき障子が無いとどのような生活になるか想像してみなさい」とおっしゃいました。
 ♯ あるべき所にある
 二十日間というものは、落ち着かない毎日を送りました。
 日ごろ何気なく開け閉めしている戸障子。生活を保護してくれているのにただ無意識に開け閉めしている戸障子。
 カーテンだって網戸だってそう、私たちの生活を保護してくれているんです。
 ふすまが新しくなって同じ部屋なのに部屋全体が明るくなりました。
       ○
 あるべき所にある。私たちは当たり前と思い、感謝も無く無意識に物を使って暮らしています。
 安心ある生活を築いてくれている物。神訓で『世の中にあらはれたる一切のものは皆ひとをいかす為にうまれたるものと知れ』と教えていただいています。
 ふすまさん有り難うございました。これからはや


さしく開け閉めしようと心に誓いました。




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