今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成17年 8月号 特集 自然社の教え
先祖と自分 一つの心を生きる
湯本光一
親 心
日本人は古代から先祖祀りを大切にしてきました。現代でも無宗教という人もお墓参りをする方は多く、先祖のお守りをお願いし感謝の祈りを捧げる方もあります。また先祖の徳を損じないようにとか、先祖に申し訳が立たないというように、先祖を自分が生きる規範にしている人もあります。
これは、生前の親の愛情に恩を感じ、今日の自分があることへの感謝の思いから、先祖が今も生きているように身近に思う自然な気持ちが、祖父母をはじめ遠い先祖にまで及んでいるのでしょう。
私たちはどうしてそのような思いを持つのでしょう。それは親心によって育まれた記憶と、その恩に報いたいという無意識の思いによって、生死を別った今も先祖と自分の心が強く結ばれているからに違いありません。
親心とは、子供を庇護して安全を守り、その育成に尽くして幸福な生活ができるようにする心です。しかもその報酬も見返りも求めないばかりか、子供の困難や危険に際しては、身を挺して守る心です。
親心とは神様のような心と言えるでしょう。それは与えるだけで見返りを求めない絶対の愛であり、子供がどうあろうと常に変わらない愛情を注ぎ、自分の命を投げ出しても悔いることのない愛です。
しかし、子供の将来を考えて、事柄によっては厳しい態度で導く必要があるときもあり、ただ子供を可愛がればよいというものではありません。
今は先祖と申し上げている代々の親たちも、今親の立場を生きている私たち同様、このような戸惑いや苦労の中で親心を磨きあげて、親として敬愛される存在になっていかれたのだと思います。
◎
ところで、人は死んで御霊となっても、生前の思いはそのまま残り、こうして磨かれた親心も持ち続け、先祖として子供や子孫を守る働きをしていきま
す。
先祖となってあの世から子供や子孫のことを思い見守る働きは、必ず子孫の上に現れてきます。
亡くなった親や先祖を身近に感じ、時には感謝し、恩に報いたい心になるのは、先祖の思いが私たちに常に降り注いでおり、私たちの素直な心がそれを敏感にキャッチしているからなのです。
一つの命、一つの心
親のない人はこの世にいません。親がいなければ自分の存在はないのです。その親にも親があり、その親にはまた親があるというように、どの家にも先祖から連綿と一つの命が続いています。
このように見ると、先祖と子孫は一つの命の流れによって繋がっており、親や先祖と自分は、別個のものではないことが分かります。
私たちの両親は、私たちが両親に対するのと同じ気持ちで祖父母に対していたに違いありません。そして祖父母は曽祖父母に同じ気持ちであったはずです。こうして一代一代さかのぼると、その時々で親と子はいつも親子という命の繋がりを実感して生き
ていたことでしょう。
それは、青年時代や幼年時代の自分が今の自分を形成しているように、親や先祖の生前のすべてが、自分の過去のことであるということです。
そして、親や先祖が生前に行った善きも悪しきも、徳も、不徳となることも、一切が私たちの現在に集積されていて、その結果が幸不幸という形になって自分の身の上に現れています。
先祖のことは今の自分に集積されているのですから、自分のこれまでの思いや行いを省みて、自分の心のありようを客観すれば、先祖と自分は一つの心を生きていることを知ることができます。
同じ性質が
自然社では「みおしえ」によって身の上に現れた苦痛の意味を教えていただき、その精進を通して自分を自覚するという信仰をしていますが、自分を自覚するという中で、先祖と自分との心のつながりを教えられることがあります。
人生で起きてきた具体的な事柄の中に、自分の心がどう動いていたか、どんな心が「みしらせ」(苦
痛)の元となったかを教わる中で、その心は先祖が積み重ねた心と一つのものであることを教えていただくのです。
人は様々な心の偏り(心の癖)を持って生きており、そのため周りに迷惑を掛けたり自分が苦しんだりすることがしばしばあります。先祖の中にはそうした心のままに人を苦しめてしまった方もあります。
人は先祖と一つ心を生きているということは、こうした行いをした先祖の心も受け継いでいるということです。自分の記憶の中にはなくても、心の中にはこうした先祖と同じ性質があるわけです。
先祖も自分も
そこで、色々な「みしらせ」を通して「みおしえ」を頂き、自分の心のありようを知って、心の癖に左右されないで生きていくことを目指すことは、私たちが幸福になっていく元となり、あの世におられる先祖の御霊の向上につながっていくことになります。
先祖が生前にされた様々な事柄は、今の私たちが
「みおしえ」によって自分をより深く知って、心を浄化する精進をさせていただくことによって浄められて、不幸の種は解消され、幸福の元となる徳は、さらに大きくしていただけるのです。
先祖と自分は一つの心を生きていることを知り、自分の心のありようを自覚して、自分自身が人間としてより良き生き方をしていくことになると同時に、幽界(あの世)におられる先祖が御霊として向上し、子孫を守り導く働きを更に大きくしていかれることになります。
先祖は常に自分の心の中に生きておられるのです。