今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成17年 5月号 広間のQ&A

じたばた、どきどき
橋本研二

   ♪ ・ ♪ ・ ♪
信徒「先生、己を捨てるというのはとても難しいですね」
教師「どうされたのですか」
信徒「この間町内でカラオケ大会があって、私も出るハメになって出たのですが、私より前の人がみんな上手に歌うので、大変なことになったと思っているうちにとても緊張してきました」
教師「歌は苦手なんですか」
信徒「いえそうでもないんですが、自分を悪く思われたくないととらわれているから上がるんだ、己を立てているからこんな気持ちになるんだと分かりました」
教師「それは大したものです」
信徒「己を捨てよう、下手でもいいから思いきり歌ったらいいんだと何度も自分に言い聞かせたんです


が、本心からそういう気持ちになれないので、緊張がほぐれないまま私の番になり、うんと調子っぱずれで歌ってしまいました」
教師「それはお気の毒でした。でもあなたがそんな風に歌われたお陰で、後の人は楽だったでしょうね」
信徒「ある方から、あなたのお陰で気楽に歌えましたと感謝されました」
教師「それは良かったじゃないですか。きっとうまく歌うより良かったと思いますよ。それに、もしまた歌うことがあっても、今度は気楽に歌えるでしょう」
信徒「はい。音痴だと定評がつきましたから、堂々と下手に歌えると思います」
教師「結局あなたはその分だけ己を捨てることができたわけですよ。歌う前にはなかなか難しかったでしょうが、恥をかきながらも歌いきったお陰で、歌のうまい人間だと思われたいという高望みを捨てることができたのです」
信徒「そういうことになるんですか。カラオケの後


、今まで話したことがない人と楽しく話ができました」
教師「自分を守ろうとして築いていた垣根が取り払われたので、いろんな人と親しくなれたのでしょうね」
信徒「そうですね。カラオケ大会に参加して本当によかったと思っています」
   ♪ ・ ♪ ・ ♪
教師「私たちはつい自分を守ろうと心を砕いていますが、それは自分と周りの壁を厚くして孤立してしまい、幸福を遠ざけることになってしまいます。あなたは恥をかいて自分を守る必要が無くなったお陰で、周りにとけ込むことができました。神様が『心の壁』をとりはらえるようにと、カラオケ大会で恥をかかせてくださったということですね」
信徒「お恵みだったのでしょうか」
教師「そうですよ。自分から進んで恥をかくことはできませんから、そのように仕組んでくださったのはお恵みです」
信徒「しかし、自分にとらわれきっている時に、さ


っとそれを捨てるのは本当に難しいことですね。頭では分かっているのですが、気持ちの切り替えは結局できませんでした」
教師「あなたが己を捨てようと思ったのは、この苦境をなんとか脱出したいと思ったからでしょう」
信徒「はい、緊張し過ぎて苦しかったので、これを何とか和らげたい、それには己を捨てることだと考えました」
教師「楽になりたいという、自分にとらわれた気持ちで己を捨てようというのは矛盾していませんか」
信徒「あ、そうですね。自分のために己を捨てるというのは確かに変です」
教師「『幸福は己を捨つるにあり』というのは、己を捨てたところに幸福が恵まれるということで、自分が幸福になるために己を捨てよう、という手段を説いているのではありません。自分の幸福などどうでもよくなったとき、幸福になれるということです」
   ♪ ・ ♪ ・ ♪


信徒「なるほど。あの時私はどういう気持ちになったらよかったのでしょう」
教師「じたばたしていたらいいのです」
信徒「先生、それじゃなんにもならないじゃないですか」
教師「じたばたして、どきどきしていたらいいのです。そして一番いいようにしてくださいとお祈りすればいいのです。気持ちが落ち着くかもしれませんし、なかなか落ち着かないかもしれません。どちらでもいいんです。神様が一番いいようにしてくださるのですから」
信徒「おまかせするということですか」
教師「そうです。神様は長い目で見て、あなたのためになるようにしてくださいますから、おまかせしたらいいのです。おまかせすることが『己を捨てる』ということなんです」
信徒「分かりました。これからはじたばたしながらおまかせしていきます」




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