今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成17年 3月号 家庭の出来事

ずっと待っていたのよ
東 嘉則

ある日の夕方、私が仕事をしているところに末っ子の次男がきて二階に来てほしいと言いました。テレビゲームをしたいのだけど、コードの接触が悪いのかうまく接続できないので、見てほしいということでした。
 私は、やりかけの仕事をしている最中でしたので、少ししたら行くからと答えると次男はさっと二階へ戻りました。
 一区切りつくまでと、そのまま仕事を続けていると、次男が二、三分して「まだ?」という様子で私の部屋をのぞきこみましたが、もう少しだからと言うとまた二階に上がっていきました。
 仕事のけりが付いたところで時計を見ると、次男が頼みに来てから十数分たっていました。急いで二階に上がっていくと、家内に「次男はずっと待っていたのよ」と言われました。


私はどちらかというと気が短くて、上の子供たちは私の血を引いたのかこの傾向を強く見せています。しかし次男は他の兄弟より少し気が長いところがあるように見えます。
 私なら、何か頼んでもすぐにしてくれなかったら不足に思うし、十数分も待たされたら腹を立てるところですが、次男は他の事をして待っていたようです。そして私の姿を見るなりうれしそうな顔をしました。
 私がテレビゲームのコードを接続していると、横でじっと見守っていて、一、二分で作業が完了すると早速ゲームをやりだしました。そのうれしそうな様子を見て「早く来てやれば良かった」と、少し胸が痛みました。
 【心を切り替えましょう】
私は次男をお風呂に入れてやりますが、何分になったら入ってきなさいと言って、先に入って待っていると、その時間までテレビを見ていても、私が言った時間になるとさっとお風呂に入ってきます。
 しかし、他の子供たちは、この番組が終わるまで


待ってとか、あと五分したらと言って、なかなか言ったようにはしません。こんなときは、「言われたことはすぐにしなさい」と注意をしますが、子供たちの姿は私が日ごろしているのと全く同じなのです。
 前記したテレビゲームのコードの接続を頼まれた時は、わずかな時間でできることなのに、待ちこがれている次男を平気で待たせていたのです。
 ほんの二、三分で済むことなのですから、さっと行ってやってやれば子供ももっと喜ぶだろうし、頼まれた事をやってしまえば後は落ち着いて仕事ができるのに、今している事を中断したくないという思いから、なかなかそれができないのです。
 そんなことで時間を気にしながら仕事をすることになってしまっているのですから、やりかけの仕事から気軽に気持ちを切り替えることができないという強情な心は「これはなんとかしたいものだ」と、つくづく思います。
 【親身になってやりましょう】
 自分のするべき事は自分の仕事として受け止めま


すが、他の人から言われたり頼まれた仕事は、自分の本来の仕事ではなく、頼まれたから仕方なくするという、「他人の仕事」として受け止めてしまうことがあります。
 自分の仕事がある上に他人に頼まれた仕事までやらされるという思いから、その仕事が不足になったり、時間が取れたらやろうとか、できれば他人の仕事までやりたくないという思いから、先に先にと延ばしてしまうことになっているように思います。
 しかし、人に頼まれた事であっても、それを自分がすることになったら、それは他人のことではなく、自分のするべき事であると、気持ちを切り替えなければなりません。
 喜んで受け入れていけば、心も明るく軽やかに取り組んでさっさと片付けられるのです。次男にコードの接続を見てほしいと頼まれた時、余計な頼まれ事という気持ちで、親身になって取り組もうという気持ちに欠けていたと、つくづく反省しました。
        ◎
 今回のことを通して、気が長くて、言われたこと


をすぐに実行するという次男の素晴らしい面を育て、伸ばしていくためには、親の私が、そのような生き方を目指していくことが大切であると思いました。
 それを通して、私もその時その場を生きるという、目の前に現れてきたことを素直に受け入れていく心で、頼まれた事でも、どんな事でも気軽にやっていけるようになれるのであると思っています。




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