今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成15年 6月号
会社を替わる
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【動 機】
信徒「私はこの度、今までの会社を辞めて別の会社に勤めることにしました」
教師「ほう、それはまたなぜですか」
信徒「実は新しく勤める会社は私が元々やりたかった仕事をやらせてくれるということなので、そこで自分の力を発揮したいと考えたのです」
教師「そうですか。それは良かったですね。私の若いころはあまり会社を替わることはしなかったものですが、最近は必ずしもそうではないようですね」
信徒「三、四十年前は終身雇用が一般的でしたが、今は変わってきました」
教師「あのころは転職すること自体が白い目で見られる風潮が多少ありました。しかし、会社を替わることは良いことでも悪いことでもありません。どのような動機で替わるかが問題なのです」
信徒「それはどういう意味ですか」
教師「会社を替わる理由は人によって違い、百人百通りでしょう。しかし替わる時の動機によって、新しい環境で大きく羽ばたくことができるか、あるいは残念な結果になるか決まるようです」
信徒「詳しく教えてください」
教師「百人百様と申し上げましたが、会社を替わる動機は大きく二つに分けられると思います」
信徒「二つと言いますと…?」
【不 満】
教師「自分の能力を精一杯発揮したいと思って、それができそうな会社に移る。自分の適性に合った仕事を通して世の中により貢献していきたいという、積極的な理由による場合と、今の会社に何か不満があって、こんな会社にはいたくないという、消極的な理由による場合です。あなたの場合は前者のようですね」
信徒「ええそうです。先生の分け方に従えば、積極的な理由ということになりますか。私は別に今の会社に不満はありませんが、先ほども申しました通り、今度勤める会社は私が前からやりたかった仕事をやらせてくれると言っています。ところで、先生はなぜ転職の理由を二つに大別して考えておられるのですか」
教師「これは自然社の教えの道理から言えることで
すけれども、同時に私自身が自分の周囲の人たちを色々と見てきて、体験的に言えることがあるからです」
信徒「それはどういうことですか」
教師「私は三十代の後半まである会社に勤めていましたが、その時会社を辞めていった人や中途入社してきた人の、会社に対する考えや仕事に取り組む姿勢を見ていて実際に感じたことです」
信徒「具体的に教えて下さい」
【投 影】
教師「会社に不満があって他の会社へ行った人、それから前の会社に不満があって中途から私のいた会社に来た人たちに共通して言えるのは、転職した会社でもまた不満の種を見つけて新しい環境でも満足できないことが多いようです」
信徒「相手替わって主変わらず、という諺がありますが、そういうことですか」
教師「教えの道理で言えば『環境は自己なり』ということです。私はそのような実例をいくつも見てきました。周囲に対する不満の思いが強い人は環境を変えてもまた不満を持ちます。会社を変えても根本的な解決にならないのです。そこであなたの問題に戻りますと、あなたは今の会社に不満はないのですか」
信徒「全然ないということはありませんがほとんどないと言えます。先生の分類で言えば積極的な方に入ると思います」
教師「そうですか、それならあなたは新しい会社で持てる力を発揮できるでしょう。それからもう一つ大切なことは、転職するに当たって、今勤めている会社に感謝して辞めるということです」
信徒「どういう意味でしょう」
【感 謝】
教師「それは、今の会社があなたを育ててくれたからです。私たちは学校で色々な知識を学びますが、社会に出てから、勤め先の会社で学校では教わらなかった人間として大切な様々なことを教わり、身につけてきたと思います。これは『会社に育てられた』ということです。もちろんその過程でつらいこと苦しいこともあったでしょうが、そこで教えられ体得したものが、これからの仕事の上にも、人生にも大きな力になるからです」
信徒「会社が私を育ててくれたのですか。気が付きませんでした」
教師「今の会社に恩を感じるという、物事に感謝し有り難く思える感性は、新しい会社で仕事をするあ
なたを、根底から支える力になります。どうか新しい会社で頑張ってください」
信徒「有り難うございます」