今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成15年 5月号
愛ちゃんありがとう
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∽手 紙∽
昨年、しばらく音沙汰の無かった親友の愛ちゃんの年賀状に「三か月ほど入院しました。体重が十キロ減り、当分外出できないので、遊びに来てください」とありました。
彼女とは私たちが独身で銀行に勤めていたころからの付き合いで、お互いに結婚してからも、家が近所ということや、子供たちの年齢も同じということもあり、四十年以上も交際が続きました。
その間私は主人の仕事の関係で各地を転々としましたが、遠く離れても友情は途絶えることなく続いていました。明るく朗らかで親切な彼女には、子供たちも含め一方ならずお世話になり、長女を産んだ
後、リューマチで困っていた私を親身に世話をしてくれたのです。
そんな親友の賀状に驚いて、早速上京して彼女の家を訪ねますと、思ったより顔色も良く元気そうでした。後で分かったのですが、体はガンに蝕まれていて、余命何か月という状況だったそうです。
何も知らされていない私は、「また来るから元気になってネ」と別れ、三か月ほど過ぎた四月二十七日の早朝、愛ちゃんから手紙が届いた夢を見ました。
手紙には「私は間もなく死ぬでしょう。これはもう今更嘆いてもどうしようもないと諦めるけれど、私の両親も主人の母も皆長生きで、近しい人の死に遭遇したこともないし、自分が先に一人で死んでいくことが非常に不安で怖いので、もう一度あなたに会ってお話が聞きたいから、ぜひ来て…」と書いてありました。その手紙を読んだところで目が覚めま
した。
∽面会謝絶∽
あまりにもハッキリしていて、書いてあった紙やボールペンの筆跡まで覚えていました。主人に相談すると「すぐ会いに行って話してきなさい」と言ってくれ、翌日東京へ行きました。
再入院したことは少し前に聞いていましたが、面会謝絶で、見舞いに行っても受付で面会を断られていることも知らず、無我夢中で病院へ向かいました。
出がけに教祖様と母の霊に「無事に会えますよう、彼女の不安を少しでも和らげられますように」お願いしました。
何も知らない私は病院の受付を通らず、横の小さな入口から入って、人に尋ねながら病室にたどり着
きました。しかし面会を断られ「夢で彼女から会いたいという手紙をもらったのです。どうかひと目会わせて下さい」と息子さんに頼みますと「もう母は意識もなく、しゃべれませんから面会しても無駄でしょうけど…」と言いながらも病室に入れてくれました。
∽返 事∽
ベッドの上の彼女はやつれ果てて、こんこんと眠っているようでした。私は心の中で神言を一心に唱えて「愛ちゃん、あなたの手紙が届いたから急いで来たのよ、起きて…」と言いますと、うっすら目を開けて、ニコッと笑ってうなずいてくれたように見えました。
私は彼女の耳元で「何も怖いことはないのよ。ちゃんとあなたを護って下さる守護霊も付いていてくださるし、ご先祖様もお導きくださるから心配しないでお任せしてね。今まで本当にありがとう」と言
って、神言を唱えながら、むくんでいる手足をさすりました。
最後に分かれる時「今日はこれで帰るけど、何かおいしい物を送るからネ。愛ちゃんは人一倍食いしん坊だから…」と言うと、小さいけれど声を出して笑ってくれました。これには側にいた息子さんたちもびっくりしていました。
∽永 別∽
夢で私を呼んでくれるということは、お互いの心が通じ合っていたからでしょうか。彼女の希望通りにお別れができて、心残りなく帰ることができました。
五月四日、愛ちゃんは静かに、苦しむこともなくあの世へ逝きました。葬儀の時、きれいで安らかな美人のままの彼女に、最後のお別れに、「愛ちゃん本当に色々とありがとう」と言いました。