今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成15年 4月号
魔法のハンカチ
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二歳になる次男を連れて近所のパン屋さんに行った帰り道、蝶々と雀が追いかけっこをして、まるで楽しそうに遊んでいるような様子を目にしました。
一瞬夢ではないかと思えるような不思議な光景でしたので「みおしえ」をお願いしますと、「何でも慈しんで親しんで喜んでいく心の姿は、他の人の心まで優しく温かくしていくものである…」という一節のある「みおしえ」でした。
この「みおしえ」を下付していただいた時、私は「慈しみ」という言葉が特に印象に残り、その後の生活の中でも時々無意識に「どうしたら慈しむ心に近づけるのかしら」と考えていました。
「けんかするほど仲が良い」とよく言われますけれど、我が家の子供たちは本当によくけんかをします。近ごろは五番目の次男も一人前にけんかの仲間入りをしています。姉と二人姉妹だった私には、理解することのできない人間関係なので、毎日繰り返されるその様に心が乱れ、ため息を漏らしてしまいます。
そんなある時、「みおしえ」の「慈しみ」という言葉が心に浮かびました。泣き叫んでいる子供に、どんなに冷静に公平に諭そうとしてみても、ほとんど効果はありません。それならば、泣きじゃくる子供の悔しい気持ちを少しでも分かってあげようと思いました。
私はポケットに入っていたハンカチを出して、無言でそっと次男に差し出していました。涙を拭くうちに次男の怒りがみるみる鎮まっていくのが分かりました。
そこで「元気出してね」と一言心を込めて言いますと、本人はうなずきながら涙で濡れたハンカチを返してくれました。その後は、先ほどの激しさがうそのように元気よく遊びに出掛けていきました。
あまりの変化に驚き、ふと心をよぎったのは、イソップ物語の「北風と太陽」のお話です。強情者のそろった我が家では、私は北風よりも太陽になることが大切なのだな、と思ったのです。
その後も幾度となく次男に同じようにしてやりましたが、すっと心を穏やかにしてくれました。
夫は「お母さんのハンカチは、魔法のハンカチだね」と笑って言いました。
長いこと溜め息ばかりついてきた私には、光が見えたような気がしました。それからというもの、他の子供たちに対しても、本人の訴えを優しく受け止めてやりますと、満足して気持ちを切り替えてくれ
るようになりました。
まだまだ感情的になって叱りつけ、かえって反発を買ってしまうことの多い私ですが、今後の子育てのコツが少しつかめたような気がしています。
今まで「子供たちの欠点を何とか直してやらなければ…」という思いがあまって、親の根本的な心である、慈しみの気持ちに欠けた母親だったことが分かりかけてきたところです。