今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成14年11月号
微笑みを少しずつ
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花子「若い人の中にも気持ちのいい応対をする人があるんですね。先ほど入ったレストランの店員さんは、笑顔で気配りがあってとても感じのいいお店でした。お店の人みんなが気持ちのいい応対だったので、ちょっとおどろきました」
教師「それはお店の教育がいいんでしょうね。このごろはきちんと社員教育をしている所が多いようですね」
花子「私もお客様にはこうでなければと反省しました。ああいうところで教育を受けたら、仕事だけでなくて先々の人生にきっとプラスになるでしょうね」
教師「そうかもしれませんね。笑顔を絶やさないで
、丁寧に接することを心掛けて毎日毎日きちんと実践していたら、自然に身に付いていくでしょう。それは一生の宝になると思いますよ」
花子「私ももう少し早くから鍛えられていたら、ましな人間になっていたでしょうが…。今からではもう手遅れですね」
教師「あなたも立派にしておられると思いますよ。それに、ご自分より若い人の長所を認める謙虚さは素晴らしいことです。良い所を見習っていこうと心掛けていたら、さらに磨きがかかっていくと思いますよ」
花子「今からでも間に合いますか」
教師「大丈夫です。人間はいくつになっても変わっていけます。今日から何かを始めて十日続けたら十日分が身に付き、一か月続けたら一か月分が身に付きます。一年続けてごらんなさい。すっかりいい習
慣になって、もう心掛けなくても自然に出てくるようになりますよ」
花子「そんなに簡単なことなんですか」
教師「簡単と言えば簡単ですが、難しいと言えば難しい。何が難しいかと言えば、続けるのが難しいのです。でも、目標をはっきり持っていれば続けていけます」
花子「あの店員さんを目標にして、私も笑顔を心掛けていこうかしら…」
教師「ぜひ頑張ってください」
花子「考えてみたら、私は今まで訓練というか、あまりよい習慣を身に付けてこなかったように思います。親のせいにしたら罰が当たるでしょうけど、私たちの世代は甘やかされて、悪いことばかり身につけてきたんじゃないかしら」
教師「親のせいにしたら罰が当たりますね。でもご自身を振り返ってご覧になったら、いい習慣も沢山あるでしょう」
花子「そうですか」
教師「そうですよ。起きたら顔を洗い、歯を磨く。ちゃんと着替えもトイレもできる。ご飯も食べる。話もできる…」
花子「先生、それは当たり前です」
教師「当たり前と思ってはいけません。それらがきちんとできるようにと、親が苦労したんですから。親だけではないですよ。字が書けて計算ができるのは、学校の先生のお陰でしょう」
花子「それもそうですね。自分一人では何も覚えられなかったでしょうね」
教師「親や先生は、将来のためを一生懸命思ってくださって、我慢強く繰り返し教えてくれたはずです。そうやってよい習慣をいっぱい身につけているのです。でもまだ十分でない所もあるでしょうし、いつの間にか悪い習慣を身に付けてもいるわけです。これからの軌道修正は自分でやっていくことなんですよ」
花子「そうですね。もうとっくに成人しているんですから、自分の教育は自分でしていかなきゃいけませんね」
教師「そうです。ただその時に大事なことは、決して焦らないことです。いっぺんに変身したいと思っても、できることではありません。急ぎ心があると、なかなかうまくできない自分に嫌気がさして、すぐに諦めてしまいます」
花子「今までの私は、そればかりでした。何をやっ
ても三日坊主で…」
教師「続けることが難しい一番の原因は、この急ぎ心なんです。すぐに結果が見えないと、もうやる気をなくしてしまう…。習慣は、習い慣れると書くでしょう。何度も何度も繰り返しやって、それがすっかり慣れてしまって、当たり前のことになってはじめて習慣になるわけです。だから力み返っても何にもならない、回数を重ねることが一番大事なんです」
花子「私はいつも二、三日頑張ってやって、息切れがして、もうこんなこと続けられないと思って投げ出してきました」
教師「健康のために運動するのに、初めから全力疾走するようなものですね。力んでやりだしたことは、続けられない場合が多いのです。習慣を付けようとするなら歩くペースでやることです。笑顔のことで言えば、微笑みを少しずつ増やしていこうとされ
たらいいでしょう」
花子「微笑みを少しずつですね。やってみます、有り難うございました」