今月の言葉 > 自然誌 文章から > 平成14年 9月号 

おまえにそっくりや
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 昨年の五月の初めころ、保育所の先生から五男の謙のことについてお尋ねがありました。

 「年中組になったので年少組の子(ペアさんと呼んでいます)の面倒を見てもらうことにしましたが、とても苦労をしているようです。お家でストレスがたまっているような様子はありませんか」

 この保育所では「縦割りクラス」という名称で、五歳児・四歳児が、三歳児や保育所に入所して日の浅い子のお世話をさせるようにペアを組ませています。

 昨年は入所して三年目でした。二年目(年少組)の時は年長組のお姉ちゃんのお世話になっていましたが、今度は自分がお世話をする番になって頑張っ


ているようでした。

 先生のお話では、五男のペアさんになった子が保育所の生活に慣れないせいか、保育士さんに甘えたいようで、点呼の時や食事の時に連れてこようとしても、なかなか思うように言うことを聞いてくれないようです。

 五男の謙は我が家では七番目の末っ子です。家では甘えてばかりいることが目立っていましたが、先生のお話から、外では責任を持ってお役目を果たそうとしていることが伺えました。そこで、五男にペアさんの様子を聞いてみました。

 すると「M君はなかなか言うこと聞いてくれへんから、いつも僕たちだけがみんなに遅れるねん」「けどな謙はもう年中さんやから…」という言葉から、ペアさんをリードしようという意識が育ってきていることが感じられました。


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 「ペアさんの態度は家での謙とおんなじや」と兄姉たちからからかわれましたが、反発もせずニヤッと笑って返していたところを見ると、少しは自分自身を見る目が育ってきているのかなと、親の欲目かもしれませんがそう思いました。

 親から見ても、ペアさんの状態は家での五男の姿とまったく同じです。

 七人の子供たちの内この子だけ、食事を遊びながら食べます。お風呂も兄たちと一緒に入ることになっているのですが「早く来いよ」と何度呼ばれても遊んでいてなかなか入ろうとせず「待ってたけどのぼせるから出てきた。一人で入れ」と言われ半べそをかきます。

 ここまで追い込まれてやっと風呂に向かい、兄たちも再び風呂に戻るのが日常です。



 やっと四歳になったばかりで保育所という「社会」に出て、自分と同じようなことをしている幼児の面倒を見ることになって、その苦労を通して幼いながらに「自分をありのままに見る」という、たいへんな修行をさせていただいているのです。

 へこたれないでガンバレ、と声援してやりたい気持ちでした。

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 あれから一年たって今年は年長組になりました。今度のペアさんはさらに手のかかる三歳児になり、五男の謙は新たな段階を迎えています。




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